金利の期間構造モデルって

仕事で、マルチファクターアフィンな金利モデルを扱っている。これは、自分的にはイマイチ納得感が無い感じが最近しているので、メモ。
以下、ここで述べているマルチファクターアフィン金利モデルについて簡単に述べる。マルチファクターアフィン金利モデルでは、瞬間短期金利が、潜在変数の線形関数であると仮定する。さらに、潜在変数は定数係数の線形確率微分方程式に従うと仮定する。つまり、式で書くとこうなる。
\mathrm{d}x_t = A x_t \mathrm{d}t + \Sigma x_t \mathrm{d}w_t
r_t = F x_t
但し、r_tスカラーx_t, w_tはベクトル、A, \Sigma, Fは適当な次元の行列で、この行列の成分に未知パラメータが含まれる。そして、w_tはリスク中立確率の下のブラウン運動。で、さらに、この短期金利と割引債の価格が
P(t, T) = \mathrm{E}\left(\exp\left(\int_t^T r_u \mathrm{d}u\right) | \mathcal{F}_t\right)
という関係で結ばれていると仮定する。ちなみに、このP(t, T)からゼロイールドを計算するとx_tのアフィン関数になるというのが名前のアフィンの由来。
このモデルの未知パラメータは、x_t, P(t, T)を潜在変数と観測変数と見て、状態空間モデルとして推定するのが自然であるし、実際アフィンモデルの場合にはカルマンフィルタで出来る。そして、適当な次元のアフィンモデルで推定すると、それなりに日々のカーブをうまく追随してくれる。ただ、カーブを上手く追随しているからそれでいいのかというとそうでも無い。ここの部分の、なぜ「そうでも無い」かが、本日言いたかったこと。
上のPDEは、離散の時系列解析ならば、AR(1)であるような、定常分布を持つ(もちろんパラメータによるけど、実際に使えるのは定常分布を持つような場合)マルコフ過程。従って、定常分布から外れた状態から出発しても、長い時間経てば最後はその定常状態の真ん中らへんをうろつくことになる確率過程。で、実はアフィンイールドモデルがそれなりに上手く現実のイールドカーブに当てはまるのは、この定常状態から外れた状態が定常状態に近づくという性質が重要で、モデルカーブの傾きというのは、定常状態から外れいている潜在変数が定常状態に近づく道筋の現れである(と思う)。従って、イールドカーブが傾きを持った状態が続いているデータ(現実のイールドカーブは、少なくとも10年以上はほぼ順イールドが続いている。その前もほとんどの期間でそうであると思う)に対してカルマンフィルタで状態推定をすると、ずーっと定常状態から外れた辺りを潜在変数がウロウロすることになる。これは気持ち悪い。
なので、カーブを上手く追随していることを持って、このモデルのPDEが現実世界の潜在変数の挙動を上手く表現しているということには若干違和感があって、論理的な整合性を保つためには、潜在変数のPDEは世の中の状態の推移を表す優れた時間発展方程式と見るよりは、単に便利な事前分布であるというような立場に立つ必要があるんでないかなぁ。