題材の本

金融工学の勉強には、この本を使っている。

Martingale Methods in Financial Modelling (Stochastic Modelling and Applied Probability)

Martingale Methods in Financial Modelling (Stochastic Modelling and Applied Probability)

金融工学には、確率解析が切っても切り離せないので、入門書であっても大抵は\mathrm{d}W^2 = \mathrm{d}tが出てくる確率解析を使いまくる。が、確率解析の基本的な道具である伊藤積分なんて、定義するだけでも数学的にかなり高度な議論が必要なのだ。というかそもそも、伊藤積分の基本になるブラウン運動だって、数学的に定式化するだけでも大変で、直感的によく分からないことがいっぱいある。なので、そんなもの達を土台に「ギルザノフの定理」を使って「リスク中立測度」に変換して「無裁定価格」を計算するよって言われても、前提の部分が分かった気になれないのでもやもや感がいつも残っていた。

この本の良いところは、まぁもちろん殆どは連続時間の確率過程なんだけど、第2章の全部が、離散時間離散状態の市場モデルで金融工学の基本概念を説明することに費やされていること。離散状態離散時間つまり有限集合の上で確率論なので、測度論のややこしい話が入り込む隙も無く、金融工学の概念に頭の使いどころをフォーカス出来る。

  • リスク中立確率って?
  • 何でリスク中立確率があると無裁定なの?
  • 市場モデルの完備性って?完備性とリスク中立確率の一意性がなぜ同じことなの?

みたいな基礎的(簡単という意味ではない)なことが気になる人にはお薦め。これらに加えて、アメリカンタイプのデリバティブの価格付けについても、動的計画法を使って曖昧さ無く説明されている。という訳で、金融工学のもやっとした部分がかなりクリアに理解出来るようになった。