献本御礼:金融データ解析の基礎

著者の高柳さんから、献本いただいた。せっかくなので、簡単ではあるけれど、レビューを載せておく。

金融データ解析の基礎、なんだけど、解析の手法自体の説明はどちらかというと分量が少ない。データ解析それ自体についての本というよりも、データ解析を始める前の段階で苦労しがちな所を丁寧にまとめてくれている本である。データ解析手法について解説した本は巷に腐るほどあるが、こういう観点から情報を集めた本は、とても少ないので貴重だろうと思う。手法が全く載っていないという訳ではなくて、時系列やVARといった、金融実務を行う統計屋さんが知っておくべき手法については、基本的な所が一通り記載されている。

例えば、この本には為替・株価・金利ボラティリティ・財務諸表データ取得の方法が一通り載っている。データ解析というのは、ツールの使い方を分かっていても、解析すべきデータが手元に無ければ一歩も進めない訳で、取得の方法から書かれているというのは気が利いている。しかも、「このパッケージを使ってこの関数を叩く」というような素っ気ない説明ではなくて、データの取得方法を説明した後に、「ほにゃほにゃで変だな、と思ったらばこういう事をすれば良い」というような生々しい説明がされていて親切である。著者の誰か(もしくは全員)が実務の中で地雷を踏んで、解決方法の検索に時間が掛かったというような苦労が透けて見える。こういう知識がまとまって得られるのは実務者には大変に有り難い。パッケージを入れたけど思ったように動かなくて、ググりまくって数時間が潰した挙句、とても簡単な事だったので脱力するというのは、データ解析に限らずコンピュータに関連する全領域でよく有る。

これは目次には載ってないけど、1章の終わりには、Rに関する情報の検索先一覧がある。こういうのも、R初心者には価値のある情報だろう。こういう知識って、結構長くRを使って、色々な事を何度も何度も検索するというのを繰り返して、時間を掛けて身に付くものなので。恐らく、著者の方々は実務でRを使い倒しており、その中で結構な時間を問題解決方法の検索に費やしているだろうから、有用なリストであろう。

また、全世界のクオンツ共通の敵Excelとの連携方法も載っている。データ・ソースがExcelしかないとか、あるあるだよね。

個人投資家でRで経済指標・財務指標の分析をしたい、とか、データ解析以外の分野から今年新しくクオンツとして就職した、というような人に特にお薦めしたい。

金融データ解析の基礎 (シリーズ Useful R 8)

金融データ解析の基礎 (シリーズ Useful R 8)